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名古屋高等裁判所 昭和39年(ネ)248号 判決 1967年1月30日

主文

第一審原告および第一審被告の各控訴を棄却する。

控訴費用はそれぞれ当該控訴人の負担とする。

事実

第一審原告代理人は「原判決を次のとおり変更する。第一審被告は第一審原告に対し、金五一三、〇〇〇円およびこれに対する昭和三四年五月一三日以降完済まで百円につき一日金九銭八厘六毛の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、第一審被告代理人は「原判決中第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決を求め、双方ともに、相手方の控訴に対しては控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、立証関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

第一審原告代理人は、

(一)  第一審被告代理人の当審における(三)項の陳述の徹回は自白の取消であるから異議があり、その他の主張は否認する。

(二)  訴外会社の損益計算書なるものは昭和三二年頃会社を辞任した訴外松川一郎の所持していたものというので信用できないものであるから、これを根拠とする計算は誤りであると述べた。

第一審被告代理人は、

(一)  第一審原告は訴外春日商工株式会社(設立昭和三二年八月二七日登記三三年六月一七日解散登記同年九月二〇日清算人第一審原告)から本訴請求債権を譲受けたというが、解散前取締役でもなく、また、自己が会社を代表し自己に会社の財産を譲渡することは無効である。

(二)  右会社は債務者一人に対し二〇万円以上の貸出はできない規定であるから、請求は失当である。

(三)  かりに然らずとするも第一審被告は右訴外会社を債務者として日掛預金をなしその合計五八六、八〇〇円の掛金債権あり、右会社は便宜上これを会社の債権に入金しているから、現在において第一審被告はむしろ債務ないわけである。したがつて、債権譲渡人の会社のみならず譲受人たる第一審原告にも対抗し得るのである。(本項の答弁は錯誤に基くから取消すと述べている)

(四)  第一審原告の利息請求は法定利息を超過し債務者の分別能力浅薄に乗じた公序良俗違反のもので無効である。

(五)  甲第一号証の手形は第一審原告が被告を欺き詐取したものである。

(六)  訴外会社の昭和三三年二月一五日現在の損益計算書と日掛による弁済とを対照すると昭和三四年三月四日現在第一審被告の右会社に対し負担する債務残額は二五八、六〇〇円で、その後二九一、〇〇〇円を弁済して支払超過となつているので、昭和三八年一〇月一七日付の債権譲渡通知前に全額弁済しているわけであるから右(三)項の陳述は撤回する。

と述べた。

証拠(省略)

理由

成立に争いない甲第一ないし第三号証、同乙第五号証、原審および当審における第一審原告本人尋問の結果を総合すると、訴外春日商工株式会社は昭和三二年八月二七日成立、三三年六月一七日設立登記、三三年九月二〇日解散登記をなした金融業を営む会社で、第一審原告は代表取締役等にはなつていないが実質上同人が資金の調達等会社の実権を握つていたうえ、清算人となつてからは、同人において会社の債権債務を実質上引受けて処理して来た関係にあり個人会社に近い実態を有していたものであつたこと、

右訴外会社としては、昭和三二年頃までに第一審被告に対し、日掛貸付、または手形貸付の方法により五十数万円を貸付けたところ、右会社は貸付金の回収も意のごとくならずして解散するに至り、その後は第一審原告が清算人となつて、貸付先である第一審被告と交渉を続け、会社の営業存続中の残債権についてはこれを第一審原告個人に譲渡し、その後もなお、従来と同様の方法により、第一審被告に対し貸付けあるいは日掛の方法により弁済をなさしめていたのであつたが昭和三四年四月一三日頃当事者間において、第一審被告の債務を元利合計金六七六、〇〇〇円と協定し、その金額の満期同年五月一二日の宛名白地の約束手形一通を第一審被告から右訴外会社清算人たる第一審原告に差し入れたこと、

その後本訴提起に至り、第一審原告代理人から昭和三八年一〇月一七日第一審被告に対し、右の貸金債権を右訴外会社から第一審原告に譲渡した旨改めて通知したこと、が認められる。

第一審被告は乙号各証中の日掛契約証書、損益計算書等を根拠として右甲第一号証の手形作成当時残債務は存在しなかつたと主張するが、右損益計算書(昭和三三年二月一五日現在)によるも、第一審被告の債務は、日掛、手形合計で五五万五千円(ただし内入金一〇万二千六百円)であり、その後第一審被告において弁済のみをなしたとは弁論の全趣旨から認められず、右書類の内容も正確とはみられないから、右をもつて前の認定を左右するには足りず、また、右甲第一号証が内容虚偽のもので、刑事事件に関し、第一審原告に詐取されたものであるという主張はこれにそう第一審原告の供述は信用できず、その他の被告の全立証をもつてするも右主張を肯認するには足りないところである。

前記訴外会社の清算人たる第一審原告が同人に右会社の債権を譲渡したことは商法第四三〇条第二項第二六五条に違反するとの主張については、前段認定のような訴外会社の実態、清算人が第一審原告一人のみであること、解散後の実情に照せば特に会社ならびに会社債権者等に不利を与えるものとはいえず、これを無効のものとすることはできないと解する。また二〇万円以上の貸出は不可なる旨の主張は、乙第四号証を根拠とするものとみられるが、これをもつて本訴請求は排斥することはできないし、特に、本件貸金が民法第九〇条違反なりと認めるに足りる証拠もないから、第一審被告の(四)の抗弁は排斥を免れない。

次に弁済の仮定抗弁は撤回されたもののごとく、相手方はこれを自白の取消しとみて異議を述べているが、本件弁論の全趣旨ならびに証拠に照して右は自白の取消しとはみられず、しかも、甲第一号証作成の昭和三四年四月一三日以前の弁済という点については前記説示のとおり、金六七六、〇〇〇円の債務を減少さす筋合のものとみる証拠はなく、成立に争いない乙第二、三号証については原審で、第一審原告代理人がこれを認めて一六万三千円減縮し請求額を金五一万三千円となしているのであるから、これまた、弁済の抗弁として採用できないところである。

第一審原告は、利息の約定につき、その供述において区々にわたるのみならず、甲第三号証の第五条の日歩九銭八厘六毛の記載はあるが、右は昭和三二年一二月九日作成のもので、訴外会社との契約であり、甲第一号証には利率の記載なくその作成当時には右会社は解散していて、当事者が右甲第三号証の利率による意思を有していたとも認め難いので、これをもつて、原告の主張を支持することはできず、結局商事法定利率たる年六分と認めるのを相当とする。

されば、第一審被告は第一審原告に対し、前記認定の金六七六、〇〇〇円中原告請求の範囲内である金五一三、〇〇〇円およびこれに対する弁済期の翌日たる昭和三四年五月一三日以降完済まで年六分の割合による遅延損害金の支払義務あり、その限度において原告の本訴請求を認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、これと同旨に帰する原判決を相当として、本件各控訴を棄却し民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

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